メキシコでセンパスチル(cempasúchil)と呼ばれるマリーゴールドの花。
メキシコ原産で、死者の日の祭壇を飾る花で、メキシコの文化・歴史を語るに欠かせない花です。
センパスチルはナワトル語で、Sempowal(20)の、xochitl(花)「20の花」という意味で、つまりたくさんの花びらが咲きひらいている様が目に浮かぶ名前です。
最も古い記録としては、儀式や美容のために使われていた様子が16世紀にフランシスコ会修道士ベルナルディーノによって記されたフィレンツェ絵文書に残っています。
メキシコの広い地域で、薬草としても知られていて、腹痛や熱、咳などの症状のほか、なんか悪い気にやられたときなどに、他のハーブと葉や花びらを組み合わせて煎じて飲んだり、香りを浴びたり、湿布みたいに患部に貼ったり。地域によって様々な習慣があるようです。メキシコの薬草文化を調べ始めるとその世界の深さ、豊かさがとても面白く、キリがなくなってしまう。
センパスチルはまた、死者の花(Flor de muerto)とも呼ばれていて、11月の死者の日になると町はこの花で溢れかえります。
死者を思い彩られた祭壇が、家や町中に飾られて、町が花の色で黄色くなる。
死者の日にセンパスチルが飾られる習慣は、もともとはアステカのメシカ族が、「黄色い花には太陽の熱が残って、死者の帰り路を照らしてくれる」ということで、死者のお墓に小さな黄色の花をお供えしていたことにつながるそうです。
その習慣が時代とともに、大きくて香りの強いセンパスチルの花へと変わっても、太陽の熱のこもった黄色い花びらとその香りが、死者の道しるべとなって無事に帰ってきてくれるようにと願う気持ちは今も変わらず続いているのだと感じられました。映画の「リメンバー・ミー」でも、その気持ちとセンパスチルの花、たくさん溢れていたみたい。
先日、そのセンパスチルで染めをしました。
去年の死者の日に手に入れたセンパスチルを乾燥させておいたのです。
日本ではここ数年、夏に実家の庭で育ててもらっていたマリーゴールドを使って染めていたのですが、メキシコで染めるのは初めて。どんなふうに染まるのか楽しみでした。
花びらをしばらく煮出した後、糸を入れたら、ぐいぐいとまるで色が乗り移るかのようにあっという間に染まってびっくりしました。
左がメキシコで染めたセンパスチルの花の色、真ん中の淡い黄色は、死者の日の直後、乾燥させずに茎と葉だけを煮出して染めた色、右は日本のマリーゴールドの花で染めた色。
日本で染めたものはどちらかというと黄色で、メキシコで染めたものはオレンジっぽい茶色に染まりました。
死者の日に向けて、近年メキシコでは約6400ヘクタール分(64㎢分)のセンパスチルが栽培されているそうで、文化的にも経済的にもとても大きな存在です。
死者の日の後、だんだんと枯れてしぼんでいく町のセンパスチルを見て、ああ、染めに使える・・・捨てちゃうのかな、もったいない・・・と思っていたけれど、以前オアハカで織りをやっているメキシコ人の知り合いに、死者の日の後のたくさんあるセンパスチルを染めに使わないのか聞いたところ、気持ち的にちょっと・・・・(無理)と言われた覚えがあります。(想像するにお盆に仏壇とかに上げたお花で染める気持ち?)
センパスチル、メキシコでも染料として使われているのはよく見るけれど、単なる染料というだけではなくて、文化と歴史と暮らしの中で本当に大きな存在なのだということがわかりました。