先日、私が織物を学んだアジェンデ美術学校にて染色のクラスがあったので、お手伝いをしに行ってきました。
三日間にわたって、コチニールや Pirul(コショウボク)、クルミの木の葉、マリーゴールドの花など、メキシコの天然染料を使って羊毛を染めました。どれもメキシコおなじみの染料で、様々に染まっていく色に生徒さんからも感嘆の声が漏れる中、特に興味をひいた染料が Muicle(ムィクレ)という植物です。
Muicle(ムィクレ)はキツネノマゴ科の一種で、メキシコからコスタリカに至る中米を原産とする低木の植物です。メキシコでは北はソノラ州から南はチアパス州まで、メキシコのほぼ全域に生息していて、古の時代から薬草としてよく知られていて、人々の暮らしのすぐ近くにある植物です。
ちょっと調べてみると、貧血や月経など血液関係、咳や喘息などの呼吸器系、デング熱や赤痢、溢血や血圧、皮膚の疾患など、時代や地域によるとは思いますが、実に様々な症状に応用されてきたようです。一般的にお茶として飲まれていて、市場の薬草店などでも乾燥したものが割と簡単に手に入りやすい割には、その多岐に渡る効能のためか、飲む際には専門家のアドバイスに従った方がよいとのことで、ちょっと気難しい、ミステリアスなお茶といった印象です。ちょっと聞いたところによると、お祭りの時によく作られるカラフルなトルティージャは、この Muicle(ムィクレ)の葉を粉にしたものを練りこんでいるそうです。食用にできる一方、お茶にしたり、染めたりするのに煮出す時には注意が必要で、特に妊婦さんの体にはよくないとのことです。
染料としては、青みがかった色に染まると聞いたことはあって、何年か前に一度、乾燥した葉を使って染めてみたことがあるのですが、全く染まらなくてがっかりした覚えがあります。どうやら、乾燥していない生の葉でないと染まらないらしい。今回は、学校に植わっている Muicle(ムィクレ)の刈りたての葉を使って染めるとのことでしたので、果たしてどんな風に染まるのか楽しみにしていました。
葉を水に浸して火にかけ、煮出して染めます。何とは言えないけれど、なんだかおいしい匂いが漂ってきます。お昼ご飯のスープみたい。染液は赤みがかって見えるけれど、白い容器に入れると紫っぽくも見える。白い羊毛の糸を入れるとグレーに染まるけれど、液から取り出すとどんどん黄色みが強くなって、緑味のあるグレーになる。緑色の葉、オレンジ色の花、赤い染液、紫からグレーへと変わる糸の色、液中と空気中では見える色が違う。なんだかつかみどころのない、不思議な色だなぁと思いました。ミステリアス!
青みがかった色になると聞いていたものの、ずっと半信半疑だったけれど、染めているときに時折、一部が濃紺に変色する葉があって、それは何かのヒントだと思いました。今回はかなり多めの量の糸を染めたのでうすいグレーといった感じの色に染まりましたが、糸の量や媒染を変えることでもっと青みのある色に染められるような気がする!
ちなみに、メキシコのインディゴ染料 Añil(アニィル)を染める過程でもMuicle(ムィクレ) を使うことがあるようで、ますます興味深い植物であります。
生のフレッシュな葉を手に入れる機会がなかなかないので、私にとってはそう簡単に染められる染料ではないのですが、先生に種をもらって、自分で育ててみるところから始めてみようかな。
気長に少しずつ、メキシコの大地が与えてくるれる豊かな色々に近づいていきたいです。