Achiote ベニノキ

5月はサン・ミゲルでは一年で一番暑い季節で、ここ最近は本当に暑くて暑くて、そして日中の外の日差しは殺人的に強くて、日陰を探して過ごす日々です。

普段は庭に染色用のスペースがあって、外で糸を洗ったり染めたりしているのですが、さすがに最近はちょっと無理・・・と思ったので、少量の糸を台所で染めたりしています。

先日は Achiote (ベニノキ)の種を使って染めました。

Achiote (ベニノキ)はメキシコからエクアドル、ペルー辺りまでのアメリカ大陸の熱帯地方が原産で、メキシコでは南の方、特にユカタン半島などで古くから栽培されていた記録があって、今でもマヤ族やツォツィル族の人々の間では麻疹に効く民間薬として飲まれたりしているそうです。花をつぶして皮膚に塗って疥癬を治したという記録があったり、葉や実もやけどや喉の不調、腎臓に問題がある場合などに薬効が期待されていたことが、16世紀以降、さまざまな人々によって書き残されています。

16世紀のフランシスコ会の修道士ベルナルディーノ・デ・サアグンによって書かれた、当時の人々の習慣や伝統、暮らしが綴られたフィレンツェ文書には、Achiote(ベニノキ)は染料として言及されています。布や糸を染めるだけでなく、宗教的儀式のためのボディペイントや口紅としても使われていたとか。

また、Achiote(ベニノキ)は香辛料や着色料としてメキシコ料理にも使われていて、特にユカタン地方を代表する料理、cochinita pibil (コチニータ・ピビル)には欠かせません。Achiote(ベニノキ)や他の香辛料で味付けした豚肉をバナナの葉で包んで、地中に埋めて蒸し焼きにした料理で、お祭りの日などに食べるそうです。美味しそう。本場の本物を食べてみたい。土の中でバナナの葉にくるまれた豚肉、想像するだけでなんかいい!

民間薬として、染料として、香辛料として、その土地の人々の衣食に深く関わっていて、メキシコの南部ではそれほどに身近な植物なのだろうなと思います。いつの時代か、Achiote(ベニノキ)の種が通貨として使われたこともあると知って、その存在感に唸らされました。

伝統、文化、風俗的な側面とはまた別に、現在メキシコで年間500トン余りの Achiote(ベニノキ)が生産されていて、そのうちの130トンあまりが化粧品や食べ物などの商業的な着色料として消費されているのだそうです。チェダーチーズとか、ソーセージとかによく使われるアナトー色素はこのベニノキ由来のものなので、知らず知らずのうちに、すでに口にしていたこともありそうです。

フィレンツェ文書では細かく砕いて赤に染まる、と記されている Achiote(ベニノキ)ですが、今回、鮮やかな山吹色に染まりました。

そう遠くないいつの日か、ユカタン地方を訪れて、Achiote の種が入っている赤いとげとげのカプセルのような実のなる本物の木を見てみたい、そして本物のコチニータ・ピビルを食べてみたい、と台所の小さな鍋で染めをしながら強く思いました。

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